男らしい、女々しいところはなく良い人でした。他人には優しく、自分には厳しいというのが、主人のモットーでした。
家族の中でも何かと思いやりのある人でした。子供を叱ったこともありません、専ら私がガミガミ言っていました。
毎日の生活で制作の手を休め夫に戻るのは昼食と昼寝の時間、それに夕食後くらいで、夜はゆっくりテルビでも見るといった繰り返しでした。
食事にしても特に注文するということは昔からありませんでしたし、気が楽でした。
主人は誠実な人でしたから、どんな日でも絵筆を持つということを信条として、自分に厳しく言い聞かせていました。
主人は晩年によく「人間を描くことに生涯を賭けたい」と言っていました。
よく円熟期の作品ということを言われますが、ある時、娘が遊びに来て珍しく主人と話し込んでいる時「最近、絵を描くのが非常に楽しく、明日が待たれないくらい待ち遠しくて、寝ていられないくらいだよ」と語っていたそうです。
主人は「自分はリアリストであり、一生変わらない。あくまでリアリストとしての仕事を深く掘り下げていく」と言っておりました。
花も沢山描いていますが、主人は「花を描くときは本当に楽しい。自分を許してかかれるから、自分としてはこんな楽しいことはない」と言っていました。
まあこれは私の想像ですけれど、花の色の美しさを描いていくうちに舞妓の衣裳の色彩を連想して描いていたのではないでしょうか。
最後の文枝夫人の一言が、宮本夫婦の「いい夫婦」関係を表現しているように思います。