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アトリエの画家(7)は熊谷守一の世界「独楽」(写真家 藤森武著)より

画室には普段から交遊のある人でも、簡単には入れてもらえない。奥さんですら、画室の物を
動かすことは勝手にはできない、という。

画室は洋画家の工房とか画質というよりも、むしろ、村の鍛冶屋の仕事場のようである。

画室に入っても何も描けないときは、これらを使ってものを修繕したり、こしらえたりして、
「絵なんか描くよりよっぽどおもしろい」とおっしゃる。

ひとたび画架の前に座ると、まず固唾をのみ、次の瞬間からは、指揮者にひきいられた楽団員
のごとく、実に清らかな、温かな序曲を奏でる。やがて、先生と道具達との間でおもむろに
湧きだされる興趣、悠々たる心のひろがりはオーケストラと化し、何とも言いがたい魅力的な
光景に見えてくるから不思議である。

先生は、画室に行く時、毎日同じ時間に画室に入られるので、「学校へ行く」という。
しかしこの学校の時間表は図画工作だけである。ましてや先生の冬休みともなると、12月から
5月までと途方もない長さで、まるで冬眠でもしているかのようである。

あとの半年間、先生は夜の9時から画室に入られる。1時間ほどの夜学である。