常設でも一時的な展覧会でも、ふだん目にすることのできない作品を、
広い空間と理想的な採光の中でゆったりと見ることができるのは、
美術館ならではの体験であり、そのためだけにでも、一日を費やす価値があると思うが、
その一方で咳ひとつするにも、はがかられるような静寂の中、
気に入った絵をじっくり眺めようとすると、すぐ隣りに次の人が待っているので、
やむをえず場所を譲ったり、反対にそろそろ次の絵に移ろうと思うと、
そこには先客がいるので、背後を通ってわざと反対側のほうに移動したり、
公共の場所で他人に気を遣いながら鑑賞するのは疲れることである。
その点家にある絵は気楽だ。
立って壁にかけてあるのを眺めるもよし、壁から外して食卓の前の置き、
ワインを飲みながら見るのもよい。
部屋を暗くして光を当て、好きな音楽を流しながら、鑑賞するのもまた格別である。
(「絵を描く日常」 玉村豊男著より)
(写真は、最近公園のバラ園に咲いていたのを撮影しました)