今日の日経新聞文化欄にこんな記事がありました。

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~~うたごころは科学する~~

君は海難救助隊員だ。今、沈みつつある舟の中にピカソとアインシュタインの2人だけが取り残されたいるとする。どちらか1人だけしか助けられないとすると、どちらを選ぶか。
この問いかけは、「ピカソーアインシュタイン問題」と呼ばれる。いつ誰が思いついたのかわからないが、この思考実験、回答者の人間性の一端が垣間見えて、ちょっとおもしろい。
人間には、年齢、性、職業、民族、国籍、宗教、家族構成など、多くの属性がある。それらの属性をすべて考慮して相手を評価するのが普通だ。でもピカソやアインシュタインの場合は、それぞれ芸術家・科学者としての属性が他を圧倒して強烈。つまり、「ピカソーアインシュタイン問題」は、「あなたは、芸術家と科学者と、どちらがより大きな価値を持つものと考えますか?」という問いかけなのだ。
読者の皆さんは、回答者が科学の徒であれば、アインシュタインを選ぶだろうと考える人がいらっしゃるかもしれない。サイエンスを志すような人は、当然、科学者を優先するだろうと。
これがそうでもないからおもしろい。
アインシュタインの業績を理解し、この上ない敬意を彼に感じながらも、「この場合はピカソだ」と答える科学者が少なからずいる。
相対性理論は偉大なものだが、これは宇宙(自然)のありさまを合理的に説明しようという行為の結果だ。科学者は宇宙を発明したわけではなく、理解しようとしているだけなのである。
芸術家は、人間社会を、自然を、自分自身を、独自のやりかたで解釈し、絵画や音楽や詩で表現する。表現という行為は自分勝手でわがままなものだが、不思議なことにこれが同時代や未来の人々の心を揺り動かすのである。科学には出来ないことだ。
私の場合、2人を天秤にかけるとすれば、ピカソの方が少し重いように思う。でも、だからといってアインシュタインを見捨てることはできないーーーー迷っているうちに、3人とも溺死するかも。どうも、最悪の結末になりそうだ。

歌人・情報科学者  坂井修一